光る君へ第15回感想
2024/04/15(Mon)00:12

・志が停滞している日々は、それなりに満たされた日々でもあり、現時点でそんな「妥協」の先のささやかな幸せを垣間見せること自体、はいつまり中盤怒涛の展開への前フリですねーと鍛えられた大河視聴者は身構える第15回感想。

・父が亡くなり、自分の志も望みも分からなくなり、荒れる道兼。
裏を返せば、道隆兄上や道長より、この世の誰よりも父兼家の死を引きずって立ち直れないとも言える道兼の子供っぽい率直さが、ひどく痛ましい。
私が支える、この世で幸せになってくださいと道長が説得するのは弟として裏表なく、全くの真心だからこそ道兼に響いたのでしょうけれど、何となく、倫子や明子に対する「等しくやさしく、等しく冷たい」(大石さんのブログより)に通じるものも感じちゃうのは気のせいでしょうか。

さっさと次期体制に入り自分の政をしているつもりで実は父のやり方から脱却できていない道隆、とっとと死ねと暴言吐きながら父の死にダメージ受けている道兼の囚われ方と比べると、兄への叱咤激励とはいえ、「父上はもういないのですから」に事実以上の感情を乗せず言えてしまう道長の淡白さは、とても健全ではあるし、またいかにも「等しくやさしく、等しく冷たい」。

・そんな道長の芒洋とした「やさしく、冷たい」を同じく感じたのが、伊周との弓比べ。
元ネタでは最初から道長が勝っていた『大鏡』掲載エピソードを、ドラマでは、もとから乗り気でない道長が「伊周殿の勝ちで」と終わりにしかけたところでわざわざ伊周が引き止め願掛け勝負に持ち込むという、この消極的巻き込まれ体質と勝負強さが光君の三男坊道長らしい。

そして、ここで自ら目立ってガツガツ勝ちを取りにいかないくせに、願いを掛けた肝心のところではしっかり中心を射抜く道長は、やはり兄からしたらどこか不気味な弟なんでしょうねえ…。

第5回で、殴りかかってきた弟に道兼が「やっと聞いたな」とせせら笑ったのは、自分の罪の証拠を見たかもしれないのに何も聞かず、それをタネに父たちに取り入る素振りも見せず淡々と数年過ごしてる弟の動向が、逆に不気味で生殺しだったからこそ、ようやく激昂し罵ってきた弟の反応=自分の理解の範囲内に入ってきたことにホッとしたわけで。

この弓比べも、後になって、8歳も下の甥相手に馬鹿なことをした…と反省していたように、道長自身は本気で伊周(とそのバックにいる道隆兄上)を負かそうとしたわけでも、まして我が家の繁栄を願掛けしたわけでもない。
もし、あそこで道長が本気で伊周の願いをかっさらおうと企んでたり、もしくは、関白様のやり方に不満ある中宮大夫として我こそはいつか理想の政を執らんと野望をむき出ししての勝ちだったなら、まだ道隆も、かつて若者組の動向を知らせに来た弟に「こんなに能弁な道長は初めて見た」と笑っていた第6回の頃ぐらいには構えていられたのではと思うのです。

道兼のように分かりやすい荒れ方で対抗心をむき出しにしてくるわけでなく、実資のように真っ当でうるさい諫言はしつつも伊周の傲慢な挑発に乗るわけでなく、むしろ勝ちを譲る姿勢=道隆家へ相応の敬意と遠慮はあるようにも見えたくせに、一本だけ最も効果的なところで威圧のように中心を射抜く。
これ今現在、摂政として頂を極め独裁をしている道隆兄上からしたら、我が家にとって排除すべき脅威なのか懐柔すべき存在なのか、掴みどころすら見えなくて、薄ら寒い怖さを覚える末っ子なんじゃなかろうか。

・第10~12回あたりで まひろに必死にすがっていた道長くん、恐らく初めての執着と感情に振り回され自分でも戸惑ってた、人生でも稀有な時期だったのだろうなと思えるのですが、振り切ってからはそれ以前にも増して低温運行に磨きがかかっていて。

政の場で何とか理非を通そうと奮闘しても手応えはなく、舅殿に自分の後ろ盾なき後の出世を心配されるぐらいに道隆との仲もおぼつかなくなり、そうして理想と現実の狭間で摩耗していく間にも、二人の妻との仲はそれなりに良く、今の身分でも十分幸せだと言われるぐらいに充足してもいる。
そんな生ぬるく穏やかな日々だからこそ、まひろから託された志は確かに存在しながらもますます文箱の奥底に隠され、彼女に抱いたほどの激情は伏流していくのだろうなあ。

同輩らに「何となくほっとする」と評されていた道長のぼんやりと一歩引いた資質が、「等しくやさしく、等しく冷たい」へスライドしてきている、この自然な歳月の重ね方が面白い。
 

・それにしても、有名な『大鏡』エピソードをこうアレンジしたのは、もちろん光君の道長らしくもあるのですが、伊周のほうもまた、あなたの勝ちですと向こうが引いてくれたのをわざわざ止めて挑発したから負けてしまうという、やがて長徳の変でオウンゴール決めるうっかり侮りの暗示が、より強くなっていますね。

また、道長が「我、関白となる」と願って射る前に道隆が止めさせるように改変したのも、実際やがて道長が関白にはならないのを考えれば巧いですし、考証担当・倉本先生の本にあった「結果的には道長は関白の地位に就かなかったことによって、伊周を抑えて公卿議定を主宰できることになり、その権力を万全にした」「伊周による公卿議定主宰を阻止した道長の政治的選択は、その意味では正しい」(文春新書『藤原道長の権力と欲望』P40)未来を思うと、道隆がある意味で息子の政治生命を断ち切った運命の瞬間にも思える。

・まあ実際、今作の道隆独裁、息子娘世代に周囲の恨みが残ることしかしてなくて、ハラハラするのですが。定子様おいたわしや……。
 

・逸話の改変といえば、今回の石山寺パート。
石山寺で月を見て『源氏物語』を着想した逸話を、道綱母との出会いに置き換え、かつて妾という立場に苦しみ、「書くことで己の悲しみを救った」先達に出会うことで、自分の才の使い道にヒントを得るという、ある種の世代超えシスターフッドにしたのは、とても良かったなあ。

やがて まひろは寧子の助言どおりではない妾という形で結婚するわけですが、その選択が、嫡妻か妾かという立場そのものではなく、自分のアイデンティティそのものを大事にできる殿御という意味で宣孝を選ぶのならば、それは先人たる寧子の助言と認識への敬意かもしれない。
そのとき まひろにとって、「命を燃やして人を思うこと」は、人生においてどんな価値を帯びているんだろう。

・ところで、明らかに『空蝉』軒端荻だった道綱のあれ。人違いに気づいたら契りを交わさず出ていくあたり、道綱は「光る君」ではない、つまり光源氏に模されるのは道長のみという作劇は続いてるんですね。
『源氏物語』中でも、あそこで人違いと知りながら軒端荻と関係を持ってしまう光源氏の行動は若く浅慮なものと描かれ、現代人視点で読んでも実際そう思いますけど、でも道綱が去って傷つく さわさんの描写に、あの状況で間違いでしたと済ませて何もしない男もまた平安時代視点では相当に無礼で無神経なのだなあと思ったり。
今ドラマ、現代語台詞だったりベタな展開だったりで見やすくしつつ、その時代の道徳常識や価値観をするっと入れ込んでくるのが、やはり面白い。
 

・そして今週は何より、ききょうさんと定子様の出会いでしたねえ…。

ただ良き妻、良き帝の后になろうとしていた可憐な少女が、「中宮様が輝けば、摂政様の政も輝く」と諭されたのを境に、後宮の長として太い芯がスッと入る、その切替の瞬間が高畑充希さんすばらしかった。

ところで、事前に定子様が知っていたききょうさんのデータは恐らく実家経由だと思うのですが、貴子がききょうの離婚を知っていなかったのを見ると、もしかして和歌の会参加時点で更新が止まってたんでしょうか。(だとしたら結構問題だし、道隆家の脇の甘さも示唆している)

緊張と一目惚れで舞い上がりながらも、上司の間違いをしっかり訂正し、しかも訂正したそれを気に入ったから使っちゃいまーす!と宣言するのがもうききょうらしくて、そんな彼女がぶち壊していく空気ごと「愉快」と優雅に笑んで包んでしまうのが、定子様の器なのだなあ。 

今作の清少納言=ききょう、登場時の感想で「空気を読むどころか、固まった空気もブルドーザーで粉砕していけそう」と書いていたら、先週出た中の人のインタビューでは、もうそれどころじゃなく、「周りの空気に合わせて己を殺すくらいならブチ壊した方がマシ」と話されてて、ちょっと笑っちゃったものの、この解釈が最高に好きでして。
お上の好きなものは何でも好きにになります、でも虫は苦手ですと正直に話し、素直な人間らしい夫婦愛を帝との間に築きつつも、それさえ政治と女房噂ネットワークに絡め取られる後宮で、后かつ関白の娘という役割を律儀に果たそうとする定子にとって、他人の目や事情などお構いなしに事実も好みも心のままに開陳していくききょうの明るさは、きっと気が合うし、救いなんじゃなかろうか。これもうほんと運命の主従…。

・まひろが寧子という先人から「命を燃やして人を思うこと」「書くことで己の悲しみを救う」術を聞いた同じ回に、ききょうの運命もまた始まるんですね…。

 

・来週は、たねちゃん再登場? あのエピソード、やはり終わりではなかったか。
今週まひろらが寺詣した帰りに疫病で死んだ民の遺体を見るギャップに、貧しいとはいえやはり まひろらは貴族なのだと改めて確認したので(『新九郎奔る!』であった、疫病流行時には、ふだんからいいもの食べている上の層は基礎体力があるから助かりやすく、食が貧しい庶民層ほど犠牲になりやすい、という話を思い出す)、たねの話がどう着地するのか興味深い。
まひろと庶民パートが繋がり続く限り、散楽一座の気配もまたずっと物語の底に流れていくのだろうなあ。こちらはどんな伏流となって、やがて『源氏物語』へ合流していくのでしょう。

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