トキワ荘マンガミュージアムに行ってきました。
『ガラスの地球を救え』特別企画展が開催中だったこともあり、11月3日らしく手塚色の濃い休日を過ごせて大満足。
この看板といい、外観といい、エイジングがとても素敵。
とりあえず、14号室(手塚先生の部屋)を外から見上げる構図は、撮りまくっちゃいますよねえ。心意気だけは満賀道雄と才野。
ピンチヒッター原稿の依頼に来た編集者の肩越し構図であったり、徹夜仕事同士の息抜き立ち話だったり、手塚御大ご来訪を迎える笑顔の大集合だったり、『まんが道』ほかトキワ荘モノで何度も見た廊下。
当時の暮らしぶりを再現した各部屋展示も、あーあれは石ノ森先生と赤塚先生が夜中に行水して叱られた流し! 臭いがひどいと噂の共同トイレ! いかにも水野先生が南京虫に襲われそうな部屋! ……と、関連書籍やドラマで何度も見ては思い描いてきたものが眼の前にあり、その細部を見ていくのがとても楽しい。
14号室フォトスポットのこちらが、レオもアトムも初期寄り絵柄が使われていて良かったなあ。この図でグッズがほしい。
ところで、展示の中で流されているトキワ荘関係者インタビューで、ちょっと興味深いお話がありました。
山内ジョージ先生が、石ノ森先生アシスタント時代を振り返る思い出話。
あるとき、締め切り間際で原稿を受け取った編集者から、不備があったので直してほしいと慌てて連絡が入った。すると先生は、君が直しちゃってよとジョージ先生らに丸投げでお任せした。このように石ノ森先生はご自分が終えた仕事に対しての執着心が全くなく、そこは手塚先生と違っていた……というお話。
これを聞いて思い出したのが、NHKアーカイブスにも入っているこちらの鈴木敏夫氏インタビュー。
石ノ森先生が、自分は「お仕事」でマンガを描いているけれど、手塚先生はマンガが「ほんとに好き」なんだ、だから凄いんだとしみじみ語られるのを聞いたという話です。
これを思い出しながら1階企画展示室に行き、『ガラスの地球を救え』展に並ぶ手塚先生の原画を見ましたら、ああ、そうなんだよなあ……とさらに感慨深くなってしまったのです。
一度完成し掲載された作品を何度も描き直す、ファンにとっては誠に厄介で愛すべき手塚先生のクセは、自作に対する執着、完璧主義、アニメ好きゆえの編集熱など、様々な形で解釈され、またどれも正解なんでしょうけれど、手塚先生がペンを走らせる筆跡や切り継ぎや修正跡も生々しく感じられる原画の前に立ちますと、胸に迫ってくるのは、ただただもう「マンガがほんとに好き」の一念なんですよね。
特に、これは私が初期作品を偏愛しているせいかもしれませんが、今回の『ガラスの地球を救え』展でいえば『太平洋Xポイント』や『地球の悪魔』のように、当時の小さな判型でコマ割りも細かい作品の原画を見ると、隅々までみっしり詰まった背景やモブ一人ひとりの表情、それらを形作る滑らかな描線に、マンガをつけペンで描くことが楽しくて仕方ない!という、そんな単純明瞭ゆえに揺るぎない快感を見て、くらくら眩しくなるのです。
今回の展示で、原画を見られて特に嬉しかった『来るべき世界』落書き予告。
各登場人物のスターシステム配役に「本年度ベスト1の超大作!」「この豪華配役!このスペクタル!乞御期待!」と大仰なコピーを添える映画ポスターパロディ的なこの落書きも、わざわざインクを変えてまで黒赤2色で描き、実際の単行本とも違うタイトルロゴまで丁寧にデザインしている、その手の込んだお遊び心が、原画で見ると余計に楽しそうで楽しそうで。
誰に見せるわけでもなく、忙しい原稿の合間にこれを嬉々として描いている手塚青年22歳に思いを馳せると、何ともニマニマしてしまいます。
手塚先生デビュー前後のスターシステム関連落書きを見るたび思うのは、単なるキャラクターの使い回しなどという安易な解釈を寄せ付けないほどの凝った遊びが何と満ち溢れているかということで。
例えば、公式サイトでも見られるこちらのスター名鑑では、自分で描けば手っ取り早いものをわざわざ印刷物からキャラクターを切り貼りしているあたりに、印刷というメディアを一旦介することで、自分の描いたキャラクターが名実ともに”スター”となったことを確認しているかのような、新鮮な喜びが飛び跳ねています。
手塚マンガの魅力はその高度な物語性であることはもちろんで、先生自身もストーリーに拘る作家でしたけれど、それと同じくらいに、自身の手で描いたキャラクターと戯れるというもっと原初的で根源的な欲望、コマ割りをし始める以前に子供が落書きへ抱くような素朴で強烈な偏愛をも、長年保ち続けられたことが、やはり手塚治虫という作家を特異な存在にしているんじゃないか、それこそが石ノ森先生をも畏怖させた「マンガがほんとに好き」の駆動力だったのではと思うのです。
手塚先生のあの異様とも言えるバイタリティについて、もちろん御本人がおっしゃった「アイデアはバーゲンセールするほどある」は大きいでしょうし、戦後ストーリーマンガ第一人者としての強い自負、負けず嫌いな性格、悪書追放運動当時も自らメディアに出ていたほどの責任感などなど、様々な原動力は挙げられましょうが、やはりこの尋常でない熱量の「マンガがほんとに好き」な永遠のマンガ小僧な面からも、もっと語られていってほしいなあ。
(その点でいうと、この世で最も敬愛する手塚ファン・石上三登志氏の手塚論が、やはり最高に好き)
子供時代の落書きからデビュー前の習作、初期から中期、後期まで、コンパクトながらもバランスよく目配りされていた今回の展示で、久々にバラエティ豊かな各年代の原画を浴びられ、そんな思いを改めて強くしたのでした。
それにしても今回の特別展は、『幽霊男』や『来たるべき世界』落書きなど私家版の作品まで含めて、本当にバランス良かったなあ。
初期作品から中期の『白いパイロット』、イラスト作品まで、密かにヒゲオヤジ先生祭りだったのも嬉しい。しかも、大スターヒゲオヤジが堂々の主役を演じた『太平洋Xポイント』を選んでくれるだけでなく、当時の子役スター大集合で可愛いが溢れてるページをチョイスするあたり、ちょっと私のツボ過ぎてどうしようかと。
何より、『ナンバー7』原画の展示ですよ…。
ただでさえこういう展示で見られるのが珍しい『ナンバー7』の、しかも全集版ラストのページ、佐々木小次郎が親友を新隊長と仰ぎ敬礼する決め顔と、次のコマではなぜかカメラ目線になってるひょうきんな顔、そのギャップで忙しいあの1ページが飾られてるって、え、何ですかこれ拝めていいんですか、一生分目に焼き付けるしかない。
いやーもう、原画大放出を売りにしていたあの六本木ヒルズのBJ展ですら、佐々木がメインになっている原画は出ていなかったので、まさかここで佐々木を見られるとは思いませんでした。まさに大旱へ降り注ぐ慈雨。滅多に公式から恵みのない佐々木贔屓として、この2コマだけであと10年は生きていける……。






