・光る君へ第5回感想
(さすがにメモという量を超えてきた)
・ああー巧いなあ。まひろがあの日からずっと怒っていたのは、母を襲った殺人の理不尽さでも、父の保身でもなく。母が殺される理由をつくってしまった幼い日の自分自身だった。
本来賢いまひろが、右大臣家に頼るしかない父の立場への理解を拒絶し続けていたのは、母への思慕や子供らしい潔癖さという以上に、母の死を“病死”にされたため、あのとき悲しみとともに父へ吐き出すべきだった「母が殺されたのは私のせい」という幼い自責そのものも塞がれてしまい、次の段階にすら進めなかったからなんですね。時が止まったまま、ずっと まひろの中にいた、自分を責め続ける幼い少女。その告白を初めて聴くのは、道長。
・自分の罪ではないことを、しかし一族の罪だと謝る道長は本当に誠実な青年なのですが、また同時に、その実にまともな誠実さによって、泣きじゃくり弱り果てた愛しい女を抱きしめるよりも先に、その女が悲しむ原因への怒りを抱いて道兼のもとへまず突っ走るあたり、やはり道長とまひろを結んでいくものは男女の恋ではないのだなあ…と。なるほど、同じ怒りと哀しみを共有する、今後もきっとし続けるからこその「ソウルメイト」。
・もしまひろと道長が今後も、直秀のツッコミ「帰るのかよ」のとおり、抱きしめる接触すらないような関係のまま最後までい続けたら、帚木オマージュのF4女談義、愛も出産も政治である帝と后の関係、その政治から逸脱したご寵愛が壊す女の体、罪に巻き込む女を「抱いてやる」手段、正妻と妾との格差…などなど、画として直接描写はうまく避けつつも性愛のことはかなり明確に物語へ入れ込んでいる今作において、それは逆に特別感が増すかもしれない。
・しかし、ソウルメイトの母を殺した兄には逆になじられ、その怒りさえ「このような熱き心があったとは」と一族繁栄の肥やしとして高笑いする父に愕然とするしかなかった道長は、これで、「唯一の殿御」に毒を盛った父と兄にふつふつ怒り続けている詮子姉上と、同じラインにいよいよ立つんだなあ。この姉と弟がやがて、一条朝のゴッドマザーと権力者として手を握るのは、ただ気の合う姉弟だからだけではないだろうという予感。
そしてまたこの渦中で、毒も何もかも飲み込んだ上でなお穏健な調整役として振る舞おうとする隆家兄上は、果たして穏健な嫡男のままでいられるのでしょうか。なにせ大河枠の井浦さんなので、良き嫡男であり続けようと苦悶した果てにおいたわしい限りの有様になるのか、案外その才で父にも弟にも制御できない方向へふてぶてしく化けられるのか、どちらでも美味しいです。
・先週の感想で、倫子の猫ちゃんにふと女三の宮を連想していたのですが、今日の猫ちゃんがそそっかしく走ってご主人の顔を客人に見せてしまう場面は、そのまま女三の宮でしたね。これで対花山天皇戦線を張る兼家パパが、少したくましさを見せた三男坊と倫子との結婚を画策する展開になるのかしらと思ったのですが、道長だけでなく倫子さまもどんな反応をするか案外一筋縄ではいかなそうである。
・倫子さま、サロンを治める鷹揚な女主人として新参者のまひろに立ち振舞やタブーをそれとなく教えつつも、彼女の学や踏み込んだ物事の見方はやはり相当気に入っているんだろうなあ。でなければ、あそこまで悪口を牽制しない。
入内もさせず結婚も焦らせない両親の溺愛と今の環境を彼女がどう思っているかはまだ明かされませんが、倫子もまた まひろを「おもしれー女」と見ているのが伺えるあたり、どこかでまひろや道長の怒りに共鳴できる素質を持っているお姫様なはずで。こちらの女同士も、道長まひろと違う意味でソウルメイトになってくれたら嬉しい。
・ところで、道長とまひろが待ち合わせした、人のいない邸(廃屋?)。直秀が「六条」と言ってたということは、やはり『夕顔』で光源氏が夕顔を連れていった「なにがしの院」オマージュでしょうか。そのモデルは六条河原院ですから。
夕顔のもとを訪れるとき、ずっと身をやつし顔を隠し続けていた光源氏が、この荒れ果てた邸に夕顔を連れてきたとき、初めて彼女に顔をさらし素性を明かすものの、その途端に彼女は死んでしまう。
もし今回のこの場面が源氏物語『夕顔』オマージュだとして、荒れ果てた六条の邸で初めて「右大臣 藤原兼家の三男 道長」と高い身分を明かす貴公子と、それによって一度死んで終わってしまう(もしくはようやく外に出せた)少女時代の心と呪いと怒りとを、やがて創作者として成長した彼女がひとつの激しく美しい物語に仕立て上げるのだとすれば、なかなか熱い。
・ぽわぽわ三男な三郎がどのように「道長」として権力者への道を歩んでいくのか、というのは大河としてはお馴染みルートである一方、学者の娘まひろがどのように「紫式部」として稀代の創作者になっていくか、というのは、意外と大河で1年かけて見られるのは珍しい作劇だと思うので、この辺どう描いていくかとても楽しみです。
今のところ、根深い哀しみと怒りがベースにあり、放っておけば爆発四散しかねない情念を、学識と理性と周囲の人への慕わしさで締め上げ、内へ内へと深く掘り下げていくエネルギーに転換するタイプの創作者になりそうだなあ、まひろ。

