光る君へ第8回感想
2024/02/25(Sun)23:03

・猫ちゃんの無事を喜べばいいのか、道兼が聴く琵琶の音と道長が凝視する直秀の顔に震え上がればいいのか。始まりと終わりのギャップが激しい第8回。

・道兼……。とりあえず今回はもう、ミチカネぇぇ…と鳴き声を上げるしかなくなってしまう。
これがまた怖いのは、いま今週を見終わった時点で、道兼が父から虐待を受けてきた痣が真実なのか、はたまた花山天皇に取り入るため兼家が指示した嘘なのか、どちらでも話は繋がるし、またどちらであったとしても、もう片方だって全て嘘だったと言い切れないことなんですよね。
もし、本当に兼家パパが病床にあってなお殴るほどに道兼を忌み嫌う虐待父だとしても、その傷のおかげで為時に同情され、為時の口添えで帝に信頼されたことで、やがて(史実として動かせない)退位事件の立役者になるのは真実ですし、また逆に、傷と虐待過去話自体が為時と帝を陥落させる作り話だったとしても、兼家がことさら道兼にお前は穢れていると辛く当たり、長男三男と差別化して泥かぶり役を押しつける精神的虐待をしてきたのだって事実だしなあ。

・もっと怖いのは。兼家が道兼の殺人を目撃した家人を「始末」したということは、当然あのとき息子が殺した被害者の家だって造作なく調べてる可能性が高いわけで。
もし今回、帝に近づくためまず為時を籠絡せよと病床の兼家が道兼に指示してたとして。でも、為時の妻が誰なのかまでは、感情の乱高下が激しい息子に兼家パパが教えていなかったとしたら。
道兼が、為時をただかつて父に使われてたお人好し学者としか認識しておらず、その家を訪い朗らかに酒を飲むのは「右大臣に疎まれている息子」だと信頼させる策の内だったとしても。まひろの琵琶に心を動かされたこと、母が身罷ったことを「気の毒」と気遣う言葉だけは、それだけはもしも真実だったとしたら。
え、道兼ぇ……ぇぇっっ!!(鳴き声)

・もしそうならば、それで万が一いつか真実を知らされたら、まひろに文を送った返事が六条での「あなたの兄は私の母を殺した」衝撃告白だった道長より、もっと救われないぞ。自分の罪なだけに。

・第1回で道兼にあの所業が付与されたときは、あーーまひろと道長に絡むこの因縁を創作することで、「七日関白」もただのイベント消化年表ドラマにしない決意表明なのかなーぐらいに考えてたのですが、えーと、ちょっと考えが甘かったかもしれない。あのあたりをどれだけ濃いドラマにするおつもりなんでしょう。怖い。まんじゅうこわい。

・ていうか、公任斉信には地味な女扱いされ、道長だってどちらかといえば才覚と機知に惚れていて、殿方に見初められない自信があります!と自分で言っちゃうまひろを、作中初めて「麗しい」と言うのが、よりによって道兼って。道兼って。

・ところで私は骨肉が手塚マンガでできている人間ゆえ、「主人公を必ず助けてくれるが決して結ばれない、でも読者人気はぶっちぎりで高い少女マンガのチョイ悪イケメン脇役」といえば、まず真っ先に『リボンの騎士』海賊ブラッドを元気に挙げるオタクなので、今日の回で直秀が海の話をしたときには、ちょっとグッときちゃいましたね…。そうですよ、こういうキャラには、ままならぬ世でも得ようともがく自由を「海」とセットで語らせねばならない。(ついでに言えば、ブラッドは正規のお相手フランツ王子の実は兄弟だった設定でもある)
そしてまた、この手のキャラは、ヒロインに今まで生きてきたのと違う広い世界を見せたところで役割を終えるのがお約束………うっっ(次週予告)

・赤染衛門が言う「心の中は己だけのもの」に加え、直秀が都という鳥籠の外へ誘う海の見える国の話を経て、まひろはようやく7年前の怨讐を心の中で組み伏せ、「あの男に自分の気持ちを振り回されるのはもう嫌なのです」とギリギリの落とし所を自分で定められる。
前に第5回感想で書いたけど、やはり今作のまひろは、生まれながらの性質と後天的な経験から育んだ怒りとで抱え込んだ、放っておけば自分すら傷つけてしまいかねない膨大なエネルギーを、学識と理性できつく締め上げ創作へ昇華していくタイプの作家なんだろうなあ。
たとえ仇の前だろうと、己の心は己だけの自由なものである証明として弾いた琵琶の音が、道兼の心を揺さぶる様に、彼女がやがて筆をほとばしらせ生まれる物語に人々が魅了される未来が垣間見えました。

・そして、道兼の訪問を父為時が詫びた一言、あれこそ7年前に まひろが聴きたかった言葉のはずで。本当はすぐ否定されるべきだった「母が殺されたのは私のせい」という幼い自責を吐き出す機会を喪失し、そのまま まひろの中にいた幼い少女が、六条での告白で道長の前に姿を現してから、今回の為時の言葉でやっと消えたようにも思えて。
やがてこの父と娘が、都の山を超えて向かうのが「海の見える国」であることを考えると、第1回から続いてきた散楽一座とまひろの関わり、父娘の亀裂と和解、恨みの区切りと複数の線が合流するところで、通奏低音のように「海」が響いているのは、次への布石としてすごく巧いですね。まひろが「紫式部」になるまでに渡る橋は、まだまだ沢山ある。

・そういえば前回の週でしたが、散楽一座を叩きのめすため東三条殿から武装集団が出ていき、その騒ぎでやっと検非違使が出てくる描写がさりげなく面白かったなあと。秩序なり権益なりを守るため武力を行使できる集団として、公的権力による機関だけでなく、貴族に委託された私的存在もあり、恣意的な運用がされていたということ。今週の回も、道長が直秀の言葉に警戒し、かつ矢傷の質問で牽制した上で特に厚くしてたのかもしれませんが、それにしても東三条殿の警備担当はやたら多い。(左大臣家が蔵の中をごっそり盗られたことを思うと、対比が際立つ)
年表でいえばそろそろ、源満仲(頼朝の7代前)の息子たちが兼家や道兼たちに仕えていろいろ差配してるんだろうなあ…と、武士のご先祖みたいな者たちの姿にふと思ったのでした。まひろが紫式部に、三郎が道長になっていくその横で、『平清盛』『鎌倉殿の13人』エピソードゼロも着々と種がまかれている。こういう繋がりも、大河枠を見続けていて楽しい。

・歴史モノの特に支配者層が主役の場合、「悪政」の描写として分かりやすいのは「重税で苦しみ飢える民」ですが、今作は都市が舞台のせいか、例えば検非違使への褒美政策が生む冤罪のように、法の恣意的施行や適用、もしくは未整備の隙間によって矛盾としわ寄せが最も弱い人間にいく、という描写になっているのもまた興味深いです。
その中で「虐げられた者」代表を名乗っていた直秀は、果たしてどんな引っかき傷を次週、やがて頂点に立つ道長に残していくんだろう。

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