光る君へ第35回
2024/09/15(Sun)23:57

笑ってはいけないかもしれないんですが、まひろ先生が人気連載作家として藤壺に収まってからというもの、和歌vs漢文ラリーしていたあの頃よりも、ますます道長への言葉が恐れ知らずになってきているのが、ちょっと笑える。
惟規くん、身分を超えようとしてた恋する女も強いが、身分も男女も超えて最高権力者に玉稿をノー直しで受け取らせる作家はさらに強いぞ……。


普通に考えれば『源氏物語』、宮中で読まれる物語で、主人公が義母かつ帝の女御と不義密通するストーリーというのはなかなか恐れ多い話で、でも実際に史実としてこの物語が存在し読まれてきたのが面白いところなんですよね。そして光君まひろと道長の場合、まあ最初から、帝の血を引く姫などと作り話をする嘘つきとして出会い、そんな風変わりな 少女に惹かれちゃった果ての熟年バディ感なので、この2人なら、こんな恐れ多い内容でも書くし受け取るだろうと妙な納得感がある。
「俺が惚れた女はこういう女」と分かりながら出仕させ、新作が上がるたび恐ろしさの底が抜けていく道長くん。


読者が光る君に誰を重ねようと「お読みになる方次第」と否定せず、少なくともお前は光る君じゃないと仲間に言われる道長も黙って見ていた まひろが、ここで初めてまっすぐ「我が身に起きたことは全て物語の種」と道長に言うんだなあ。
物語は紛れもない虚構だとしても、書かれた事象や感情は生々しい人間の真実でリアリティを担保していく。まひろが見聞き感じるもの「全て」を貪欲に呑み込み、しかも一見元ネタが分からないほど巧妙に解体再構築していくのが、まひろの物語。
書くことで悲しみを癒やした寧子よりも、愛する人を慰めその名望を守るため筆をふるった ききょうよりも、作家としての業が深いんじゃなかろうか。


面白いのは、ここまでフィクションとして描かれてきた まひろ≒紫式部と道長の人生が、作中で まひろが書く『源氏物語』の元ネタの一つだとはっきり明示されながら、実体験も一旦物語として書けば「真のことかどうかも分からなくなってしまう」と まひろ自身に言わせるんですね。
視聴者側が現実の『源氏物語』と重ねながら見てきた まひろと道長の物語が、今度は作中世界側の視線で客観化され『源氏物語』という虚実皮膜に回収されたとき、ここまでの『光る君へ』ストーリー自体が、真かどうかも分からない「霧のかなた」になる、何重ものフィクションの入れ子。

そもそも大河ドラマ自体、史実とエンタメ性とのバランスが毎年話題になる枠なわけですけど、その大河ドラマで、虚と実のはざまを物語化で越境していく作家をこう真正面から描くのは、やはり面白いです。
もしかしたら、『鎌倉殿の13人』で義経がうそぶいた「歴史はそうやって造られていくんだ」へ、大石さんなりのアンサーかもしれない。
(大石さんと三谷さんの関係的にも、今作は『鎌倉殿』からの刺激なんだろうなあと思える点が多々ある)


まひろの出仕が晴明の予言どおり左大臣道長の光=助けになったのは、『源氏物語』の続きで気を引いて帝の足を藤壺に向けさせたこと…ではなく、物語の力で彰子自身の中にある「帝に愛されたい」願望に気づかせたこと、という流れもとても良かった。

そういえば彰子さま、まひろに初めて『源氏物語』の粗筋を聞いたときも、光る君はこれから何をするのか気にしていました。
”いけにえ”としての入内さえ「仰せのままに」で受け入れていた彰子が、若紫はどうなるのかと強い興味を示し、光る君の妻にしてあげてと藤式部に必死で頼む。これもしかして、何もかもお膳立てされ世話されながら実は何ひとつ自分で決めてこれなかった彼女が、初めて何かを自分から強く求め、言葉にした瞬間だったんじゃないかと思うと、泣けてくる。


彰子さまが必死で絞り出した直球の「お慕いしております!」のいじらしさに、ふと木下恵介監督『お嬢さん乾杯!』で原節子演じる華族のお嬢様泰子がラストで叫ぶ「惚れております!」を、個人的には思い出したり。
心の内を告げるなど「私ではない」と言うあたり、帝を一人の殿御と考えることさえカルチャーショックだったのと同様、恐らく中宮としてあるべき姿も(幼いなりの潔癖さで勝手に)思い描き真面目に自分を律してきただろうと考えると、若紫に我が身を重ねるだけでなく、「無分別の極み」な光る君の物語は、彼女の感情可動領域を広げ解放する一助になったんじゃなかろうか。これもまた物語の力。

 

次週予告で ききょうさん再登場。
ちらっと見えた上衣はもしかして鈍色でしょうか。だとしたら、彼女はまだ定子さまの喪から明けていない。そんな彼女にとって まひろの『源氏物語』は、どんな物語として響くんだろうなあ。影も書いてこそ光が輝くと言った まひろなりの定子に向けた敬意として受け取るか、憎き左大臣の武器として読むのか。

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