個人的な観測範囲内の体感なのですが、アトムの誕生日4月7日について、「作中で設定されている誕生日」というだけでなく、「『少年』で連載が始まった日だから」という言及が、ここ数年で急に増えてきた気がします。
今年はどうなのかなーと試しにツイッター戻って覗いてみたら、やはり増えてた。ていうか、記念日によく見るインプレ稼ぎ系だけじゃなく、地方図書館みたいな公的アカウントまでつぶやいていた。
うーん、リアタイ世代ではないとはいえ一応人生の大半は手塚オタクをやってきた身ですが、少なくとも手塚先生ご自身の発言もしくは公式資料や研究本ではっきり、4月7日=『少年』誌上で『鉄腕アトム』の連載が始まった日という由来を見た記憶はないんだよなあ。それとも最近そういう新発見の根拠資料か研究でも出たのかしらん。
と、ここ何年かずっと気になっていたので、今年はいい機会だし発掘兼ねていろいろ見返してみました。
■公式サイト内の『鉄腕アトム』作品紹介
「2003年4月7日」に天馬博士がアトムを作り上げたという作中設定の紹介のみで、『少年』発行日の記述はなし。
なので、公式が急にそう言及し出したわけではなさそう。
■そもそも『少年』の毎月発売日はどうだったのか

↑『少年』昭和32(1957)年9月号別冊付録『ブラックルックスの巻』巻末広告
(鉄腕アトムハッピーバースデーボックス収蔵の復刻版より)

↑『少年』昭和28(1953)年8月号掲載『赤い猫の巻』
(復刊ドットコム『鉄腕アトム《オリジナル版》01』P210)
『少年』は標題号月の前月7日に発売されていたと分かるので、『鉄腕アトム』初回が載った昭和27(1952)年4月号の発売日は、4月7日ではなく3月7日だったはず。
ちなみに、月刊誌の号数月が、実際の発売日よりも未来の日付になっているのは、出版上の慣習のようで。
・雑誌の号数(○○月号etc)と実際の発行月はどうして違うのか。|レファレンス協同データベース
・[発売日]と[発行年月日]|出版科学研究所
なので、連載開始の雑誌発売日=誕生日の設定根拠は、やはり疑問が大きい。
■ところで、なぜ4月7日なのか
そもそもアトムの誕生日ついては変遷があったことが、森晴路室長の『図説 鉄腕アトム』に分かりやすくまとまっていますね。
・『鉄腕アトムクラブ』昭和40(1965)年3月号 アニメ版『鉄腕アトム』特集で、アトムの生年月日は「2013年4月1日」と記載。
・『少年』昭和41(1966)年6~12月号『ミーバの巻』中で、天馬博士がアトムを作ったのは「2013年4月7日」と言及。
・昭和51(1976)年6月発行 サンコミックス版『鉄腕アトム 20』 『ミーバの巻』天馬博士の台詞が「2003年4月7日」に改変。以降、これが底本に。
この揺らぎを見ても、連載開始日という動かせない日を根拠にアトム誕生日を設定したとは考えにくい。
ちなみに森室長は上述の本あとがきで、手塚マンガのキャラクターは誕生日ほか設定がいい加減なものが多いのだから、アトムの誕生日も「おそらくたまたま設定されただけ」ときっぱり書かれています。
確かに手塚マンガ人物のプロフィール、だいたいマンガ的冗談だったり後付けだったりするもんなあ…(BJの連載が続いてからバックボーンを後から考えることになり、本名の案を求められた当時の担当さんが頭ひねって出した「黒野十一」がさすがにボツくらったお話、いかにも手塚逸話らしくて、とても好きです)
なので、設定決めるときにももしかしたら、『少年』連載開始号の標題月=4月(発売月ではない)がヒントとして手塚先生の念頭にあった可能性は否定できませんが、4月7日=発売日だからとピンポイントで根拠付けるのは、やはり不正確ではと思うのです。
■そういえば2003年当時はどう言及されてたか
というわけで当時のスクラップブックも引っ張り出してみた。
新聞を中心にTVやアニメ雑誌、当時の小遣い許す限り集めてた記事を読み返しましたが、やはり連載開始日由来という言及はなし。あくまでも、原作中で手塚先生が設定した日だからという前提で、それでいてリアルタイムにやってくる「2003年4月7日」への祝賀ムードが、今読み返してもすばらしく熱い。わあ、懐かしくて涙出てくるな。
で、その中でふっと目に留まったのがこちらの記事。

朝日新聞2003年4月7日夕刊
手塚先生の妹・宇都美奈子さんのインタビュー記事
手塚先生が13歳で書かれた『春の蝶類』の一文「スプリング 何という快い発音だろう」にも通じる、ほのぼのと温かな解釈。
上述のように、特に深い意味もなく設定を決めてるだろうとの森室長説に私も賛成だし一番しっくりきますが、と同時に、ご自分のマンガとキャラクターがその時代の子供たちに受け入れられることを気にかけていた手塚先生が、たとえ無意識でも、当時ご自分の代名詞的存在にもなっていたキャラクターの誕生日を、子供たちが明るく遊ぶ爛漫の春に設定したとしたら、何だか素敵で微笑ましいじゃないですか。
(ちなみにこのインタビューで、記者がなぜ4月7日生まれなのかと聞いていること自体、やはり2003年当時、4月7日の根拠は連載開始日というネタは出回っていなかったんだなと分かる)
この記事を再発見できただけでも、いろいろ見返してよかった。これで自分の中ではストンと腑に落ちたので満足です。
ところで、結局この4月7日=連載開始日の出どころはどこなんだ…?の疑問は解けなかったのですが、Wikiの「鉄腕アトム」項には記載されているんですね。でも、いつ加筆されたものなのか履歴を遡ってもよく分からなかった。というか、もうそこまでたどる気力もなくなった。まあいいや。
…とはいえ、ここまで見返しメモしたものの、手塚先生御本人こそが、『少年』発売日のデータも記憶も何もかも無視して、その場のリップサービスや勢いで、いやあアトムの誕生日はねえ連載開始号発売日なんですよお!とどこかで発言されてても別に驚かないというか、それはそれですごーく先生らしいなとも思う。なので、もし本当にそういう記録が発見、公表されていたのでしたら、ぜひ知りたいので、この辺境を見てる方でご存知の方いたら教えてください。

