カムカムエヴリバディ第2週「1939-1941」
#006 11月25日(月)
・先日の名場面特集アンケートで、真っ先に回答に打ち込んだ回。
美しい四季の情景、穏やかに育まれていく二人の気持ちの合間合間に、英語が敵性語とされ娯楽が狭まり日常がじわじわ侵食されていく様が、安子と稔の往復書簡だけで描かれる見事な短編のような構造、何度見ても痺れる。
たった15分で1年以上の歳月を描きながら、決して駆け足に感じさせず、ゆったりとした厚みさえ感じるのは、脚本演技美術音楽演出の総合技だなあ。
・「不穏な未来」を予感させながら、この回のラストが、かすかな日なたの希望で締められるのがまた本当にいいんですよ。藤本脚本の優しさ。
そして、この「ひなたの道を歩けば、きっと人生は輝くよ」が、この後のつらい展開の時期にもずっと物語を底支えしてくれる、あそこまで太い背骨にまでなっていくとは…と、これも2周目の感慨。
・2周目ならではの感想といえば、冒頭の稔さんがおぐら荘に戻ってきたシーンで、学生さんの名前がずらっと並んだ表札に「鈴木」が見えただけで、きゃっきゃしてしまう。(鈴木くん…きっとあの後もたくましく生き抜いてくれたと信じてます)
・安子が映画館を見上げるシーンでかかっている黍之丞ポスター、「暗闇でしか見えぬものがある」が、もうこの時点から大きく書かれていたんですね。戦前からの伝統だったこの決め台詞で、モモケン二代にわたるレジェンドっぷりに改めて思いを馳せる。
・「お店のお菓子に負けない」お汁粉をつくる ひささんの腕を皆が認めている。それでもやはり女は菓子職人になれないのが当然とされる世界が、今の安子の現状なんだよなあ…。それは、正月なのに里帰りを中止させてまで「取引先との付き合い」を稔に覚えさせようと当然の顔で話す千吉の、その視界に次男の勇ちゃんが入っていないのと地続きで。
・そんな中でも、稔さんが「弟ながら勇は大したやつ」と語る兄らしい眼差しに救われるし、切なくもなる。稔さんが弟に向けていたこの思いを、最後まで「弟」感が抜けなかった勇ちゃんがどこかで実感できたことはあったんだろうか。届いているといいな。
・世の中が変わっていくことへの不安、恐れをひっそりと手紙で打ち明けた少女に、『On the Sunny Side of the Street』の歌詞で返信する。「ひなたの道を歩けば、きっと」の祈りは、実は誰より稔自身が、大阪で授業の変化や父の取引先との接触を経験する中で、切実に信じたいと願うものだったのかもしれない。
安子も稔もまだ10代だった第2週の始まり。
#007 11月26日(火)
・チャップリン映画風の回想、英語禁止のエンタツアチャコ漫才言い換え…と笑いに乗せながら、昨日のチェリー→櫻に引き続き、じわじわ締め上げられていく世相が描かれるテンポのよさよ。
あえて年代や日付を作中で出さず、作中人物たちと同じ没入感を味わえるよう演出されていたというカムカムなので、この笑いさえ、少し不自由だしおかしいと思いつつも慣らされていってしまう普通の人間らしさをどこか感じ、じわじわ苦しい。
・本放送のとき、菓子の種類が減ったのを確認していた相互さんのツイにハッとしたので、今回再放送でよく見てみたら、確かに。稔さんが初めて来店したとき、羊羹やわらび餅がたっぷり置いてあった側のケースは、もう空っぽだ。冒頭のケチ兵衛さん激昂で最中ばかりに気が行ってしまうけど、それどころじゃない事態に実はもう既になっているし、皆その風景に慣れている空気感の描写が、さりげないんですよ。
・本放送時も何度か感想で書いたんですけど、やはり算太が、この作品でリアリティラインの結節点を担ってることを、再放送でつくづく思う。
算太が落語の住人のような存在のまま許容される時期は、安子の人生が優しいおとぎ話そのものだったときと重なるし、算太の言動が痛みと歪みを伴うところまで現実のリアリティラインが上がったとき、安子の人生もまた同じ場に引き上げられる。
算太の大阪時代がノスタルジックなサイレント映画風に楽しく語られながら、その虚構の夢をぶち壊す現実の借金取りが現れる今日の回は、ちょうど狭間の回だったなあ。そして、その繋ぎ目を自在に行き来できる濱田岳さんの巧みな身体性。
・そして今日は何よりも、こわての田中回。再放送でもうちわ振ってしまうわ。まさかこのヒロイン3代に及ぶ百年の物語が、百年の田中の物語でもあったとは、本放送の頃この時点では夢にも思わなかった。藤本脚本のこういうすっとぼけたところも大好き。
・安子の信念「美味しいお菓子を怖え顔して食べる人はおらん」を初めて覆す田中の登場は、安子の小さく穏やかな世界に現実のリアリティが侵入してくる予感の象徴だし、またその不穏さを、大福食べながら脅迫するという絶妙な怖さとおかしさで体現する徳井さんの存在感はやはり唯一無二なんですよねえ。藤本脚本の欠かせぬアクセント。
・やはり『カムカム』の次は『ちりとてちん』をどこかで再放送して、こわもての田中一族に連なる伝説の取り立て屋「あわれの田中」に旋風を巻き起こしていただきたい。
あと、田中が戦後に太鼓持ちの釜吉を名乗ってる『ミニモニ。でブレーメンの音楽隊』も、ぜひぜひどこかで再放送してほしいなあ。関連性で言えば、『ちりとてちん』よりもさらに『カムカム』の直接的な先祖作品だと思うので。3世代ヒロインのリレー構造、各世代をつなぐ音楽と楽器、戦争で身寄りを亡くし英語を学ぶヒロイン、彼女が果たしたかった約束と罪滅ぼしに至る壮大な55年の物語。
#008 11月27日(水)
・13分目に入る『アルデバラン』演出が余りにも鮮烈な印象を残す回ですが、こう改めて2周目の流れで見ると、やがて遠く るい編、ひなた編で何度も変奏されていくテーマが早くも織り込まれている回でしたねえ…しみじみ。
・小しずさんが心の底から安子を気遣って言う「みんな、安子に幸せになってもれえてえ」「じゃけど、何が安子の幸せなんかは安子にしか分からん」。
この、相手の幸せを願いながら相手の本当の願いが分からない もどかしさというモチーフが、皆して るいの幸せを願いながら るい本人の気持ちを聞こうとしなかった安子編終盤、その傷を受けて成長した るいが「私の幸せを決めつけんといて」と立ち上がった るい編中盤、そして一番頼りなくジタバタしながらも自分の意思で挫折をぶった切っていった ひなた編で、何度も繰り返されていくこの先を思うのです。
みんな間違う、それでも、と願いトライアンドエラーを重ねていく百年の中で、女傑でも天才でもないごく普通のヒロインたちが選ぶ「幸せ」の幅も広がっていく物語。
・そうか、モモケンのあの決め台詞も、月曜日のポスターだけでなく音声でもうこのとき出てたんですよね…と思い出す3年ぶりの2周目。戦前モノクロ映画のお見事な再現っぷりが楽しくて、そっちに記憶がいっていた。
しかしモモケン、本放送のこの頃は、てっきり『カーネーション』の春太郎ポジションかと思っていたのも懐かしい。まさか「暗闇にも~」の台詞が「ひなたの道」と併せてあんなにも響く重要な存在になるとは。
・そして、このさりげない映画鑑賞シーンが、やがて最終盤で、稔さんと過ごしたこの大事な思い出にだけは嘘をつき通せず、アニーが安子へと戻るトリガーになる未来を思い、たまらなくなるのです。
あの様子だと恐らく渡米後も日本人コミュニティから離れて暮らしていたろうし、二代目モモケン出演作はともかく初代の、特に安子が稔と見た戦前の作品を見る機会などほとんどなかったはずで。たった一回の記憶を、どれほど大事に何度も頭の中で鮮やかに再生し続けていたのだろう。
・その記憶をやがて「Sunny side」の名を持つ孫に聞かせる未来もまた、その先にあるんですよ、と、「ひなたの道」を重ねた住吉川で沈む夕日を見つめる2人のカットに、声をかけたくなるのです。
本当に安子編、というか『カムカム』は無言のシーンが美しい。
・安子編後半の展開を知った上で見ると、店のことを真面目に考えて背負い込み、何も言わずただ好きな人と最後に会えただけで自分を納得させ帰ろうとする15歳の安子は、何もかも背負った果てに空回りしてしまい、ただ一人愛する娘の拒絶が最後の決壊点となり、自分さえ消えればいいのだと思い詰めてしまう26歳の安子へ、やはり繋がっているなあ。
(安子編の後半は本当に、安子よく頑張ったよ、もういいよ……という感想がまず先に出てくるので)
#009 11月28日(木)
・おとぎ話のような初恋の擬人化だった稔さんの、そのスマートな完璧さは14~5歳の安子から見ての視点ゆえだったのだ、と(いい意味で)よく分かる回。
いくら小せえとはいえ商いの大先輩たちに対し、正面突破しようと立ち向かう稔さんの、その誠実さと若者らしい青さが顕わになり、より一層愛おしさが増すんですよねえ…。ここからさらに稔さんの人間くさい揺らぎが増していく。
・ここまで、安子視点で稔さんとの出会いがいかに世界を広げるものだったかキラキラと語られてきたからこそ、稔さんのほうから「安子さんに出会うてから僕の目に映る景色が一変しました」と語られることの、何と尊いか。
汽車に飛び乗って忘れる程度の(でも義務として忘れてはいけない)家族への土産、取引先へ示す礼節ぐらいの認識だった菓子に、それ以上の心温かな意味を教えてくれた人。
・あんたの父はええ男じゃ、菓子は何が好きじゃと世間話から場を和ますのが恋愛結婚の祖父母で、跡継ぎのあなたが一存で決められる問題なのか、安子は家から出せないと現実の課題を冷静に提示するのが見合い結婚の父母という、橘家のバランスよ。
・あの時代に杵太郎ひささんが恋愛結婚した経緯も、きっと藤本さんの頭の中にはあるだろうと思うと、スピンオフか裏設定公開ください…と焦がれる気持ちになる。ほんとこの老カップルかわいすぎるんじゃ。(最終的に、曾孫の るいジョー夫婦もこの可愛さの境地に至るのがまた)
・お店の一人娘と会社の跡継ぎ息子という組み合わせ。そして稔が想いを熱く伝える長回し。きっとこれ『ちりとてちん』の友春さん順ちゃん結婚回の15分ワンカット回へのセルフオマージュも含まれてると思うんですが、そんな同じ構図だからこそ、稔の誠実な人柄を知ってもなお、金太さんが「もう、うちにゃあ安子しかおらん」と言うしかない、戦前の家制度の頑なさが哀しい。
・そして改めて見ると、冒頭から9分、一言も発さず受けに徹しながら、初めて言葉として聞く稔さんの思いに驚き、胸を熱くし、決意を固くする微細な揺れひとつひとつを眼差しで表す上白石萌音さんの演技がすばらしいなあ。ここで確実に安子が階段をひとつ上がっていますね。そして発する「あなたと、ひなたの道を歩いていきたい」の力強さよ。
・国民服を「皆が同じものを着るなんてつまらない」と嫌がる美都里さん。不揃いの大福をつくり「軍隊じゃねえんじゃから足並みそろえんでも」を言っていた算太と、実は同じこと言っていたと気づく。
後に、この2人がああして一瞬でも互いを必要として慰め合えたのは、決して偶然ではなかったのかも。
・去年から正月も夏休みも帰郷してなかった稔さん。勇ちゃんにとっては、あの夏祭りで安子にひどいこと言ってしまって以来の兄の帰郷なんですよね。その後、安子に謝罪して汽車の時刻を伝えたとはいえ、その後の2人の文通まで知ってるかは分からない。
そんな久々の帰郷でも、兄が菓子屋の話をすれば、勇は兄が安子の心配をしているのだと察するし、また兄も、勇が唐突に「あんこが好き」とこぼせば咄嗟に「あんこ」=安子ちゃんのあだ名だと思い出す。互いにとって大事なものをちゃんと覚えている良い兄弟だ。
・「後継ぎにふさわしい教養と品格」を身につけるべく自己抑制し生きてきた稔さんが、初めて衝動的に行動したのが、第8回で安子を心配し急行に飛び乗ったあのときだったとしたら、同じく父と母が長男と自分に寄せる期待の差を当たり前のものと受け止め育ってきた勇ちゃんが、初めて兄に対しわがままを示したのは、この回ラストの「わし、あんこ(安子)のことが好きなんじゃ」だったのかも。
・これはもう戦後編から ひなた編ラストまでそうだけど、勇ちゃんが安子に向ける思いは結局最後まで、後ろめたさや憧憬も含む兄への思いもセットになってしまうのが勇ちゃんの悲劇であり、また良さでもあったと思うのです。
誰かの夫や父になっても、立派な雉真の社長になっても、ずっと稔さんの「弟」だった勇ちゃん。それが、安子の帰ってくる懐かしい場所の一部にもなる。
#010 11月29日(金)
・2人の文通と深まる恋心の様子など知らないはずの勇ちゃんが、長年の安子への思いを兄に明かしたのは、菓子屋の心配をしていた稔の言葉に、ああ兄貴は安子をあの夏休み以来まだ想っているのだと確信したのがきっかけだろうけど、まさか前夜に安子の家へ挨拶まで行ってたというのはさすがに驚愕だったろうなあ。
そんなお互い想定外の告白を受けても、稔さんは勇のボールを受け止めつつ両家の親へ誠意を尽くすと誓うし、勇もただ淡々と諦めない決意を告げる。やはり兄も弟を互いを尊重しようと努める兄弟なんですよねえ…。(ただし、この時点で肝心の安子へは何も言ってないところがやはり勇ちゃんなんですが)
・ケチ兵衛さんが険しい顔で説く「日本全国津々浦々、この時間この放送に合わせて」ラジオ体操をする意義。ああそうだ、ここで”同じ時間”に”同じ放送”を聞き”同じことをする”意味が強調されていたんだ。だからこそ、この回のラスト、離れた岡山と大阪でも同じラジオ講座を聞き続けていた安子と稔、2人を結びつけていた『基礎英語講座』が突如なくなってしまう絶望感が際立つ。
・吉右衛門ちゃんの賢さに父のケチ兵衛さんが感激して言葉に詰まる「何で、お前はそねん…」も、今日まで何度も繰り返し、くすっと笑えるパターン化と思わせておいて、ここで同じ台詞を違う重さで勇と安子に再現させるんだなあ。
甲子園に行けるよう祈る優しさも、すぐ謝る素直さも、稔の言葉を伝え励まそうとする気遣いも、勇にとっては、安子が自分の思いに気づかず、兄と想い合っている現実を突きつけられる言葉だ。あまりにも複雑なものを抱えて絞り出すように勇ちゃんが言う「何で、お前はそねん…」。
・これは本放送時にも言いましたが、勇ちゃん突然のハグは、片思いゆえというよりも、甲子園中止ショックと兄への感情と安子の「ごめん」が重なっての衝動的なもので、『ちりとてちん』草々破門直後に小草若ちゃんが思わず若狭を抱きしめてしまったときと同じに見えるんですよ。罪悪感や心細さ、兄弟弟子への思いがぐるぐるして、草々帰宅と思いきや若狭がいた驚きでつい泣きついてしまった、恋よりもっと広い家族愛に必死で縋るようなハグに見えたあれによく似ている。
・それにしても、厳しくなる砂糖の配給、菓子の種類減少、英語の敵性語化、甲子園中止、職人の召集……とじわじわ生活が厳しくなっていく流れで聞く、緊迫の12月8日「戦闘状態に入れり」臨時ニュース。今でさえこんな毎日キツイのに本気ですか…と日常へのしかかる重苦しさが生々しいんですけど、よく考えると、始まってまだ10回、本格的に戦争期の描写が始まったのは今週からで、もうこの空気感が出せているの、やはりすごいテンポ感だな…と2周目でも慄く。
第2週まで来て、毎日この量書ける自分にちょっと笑っている。
さすがに量多いなと思うので、来週以降は打ちっぱなしでなく、もうちょっと推敲した文量にするのを目指します。
ええ、はい。藤本脚本の新作情報がまだなかなか出ない現在、頭から尻尾まで藤本脚本成分ギュッと濃厚詰め込みな『カムカム』を再び毎日見られて浮かれている自覚は十分あります。

